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ご本人の力を活かして続けるご家庭での口腔ケア
高齢のご家族の口腔ケアは、すべてを介助するのではなく、ご本人ができる歯磨きを残して磨き残しやすい場所だけを補う形が続けやすくなります。お口を清潔に保つことは、むし歯や歯周病、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスクを減らすことや、食べる楽しみを支えることにつながります。ただし、その効果にはお口や全身の状態による個人差があり、毎日続けるケアが必要です。
また、不適切な力加減や姿勢でのケアには粘膜を傷つけたりむせたりするリスクも伴います。ご家庭での具体的な手順や嫌がるときの声かけ、歯科へ相談したいサインを整理しました。
この記事の要点まとめ
- ご本人ができる歯みがきを生かし、みがき残しやすい奥歯や歯ぐきのきわを家族が手伝います。
- むせや疲れが見られたらいったん手を止め、姿勢や体の調子に合わせてケアのやり方を変えます。
- 出血や腫れ、食事中のむせ、入れ歯の違和感が続くときは、様子をメモして歯科へ相談します。通うのが難しいときは訪問歯科も選べます。
高齢者の口腔ケアを家族が補う方法|本人の役割を残す分担と手順

お口の手入れは、むし歯や歯周病の予防だけでなく、誤嚥性肺炎を防ぐことや、かむ・話すといった働きを保つことにも役立ちます。ご本人の状態に合わせて、誰がどこを手入れするかの手順をあらかじめ決めておくと、お口の清潔を保ちやすくなります1。
本人に任せる部分と家族が仕上げる部分の分け方
見やすく手が届きやすい前歯はご本人に任せ、細かい動きがいる場所だけをご家族が仕上げる分担が基本です。
手の震えや握力の低下があっても、歯ブラシの柄にタオルを巻いて太くしたり、電動歯ブラシを取り入れたりするとご自身で磨きやすくなります。ご家族が補うのは、汚れが残りやすい次の3か所です。
- 奥歯のうら側と、かみ合わせの面のみぞ
- 歯と歯ぐきのさかい目
- 部分入れ歯のバネ(金具)がかかる歯のまわり
ご本人の状態に合わせた手入れの手順書を用意し、それに沿ってご家族が手伝うやり方もあります。
歯・舌・頬の内側をきれいにする順番と道具
手入れは、やわらかめの歯ブラシ、スポンジブラシ、舌ブラシ、湿らせたガーゼなど、ご家庭で用意しやすい道具を使って進めます2。力を入れず、歯を磨いたあとに頬の内側、上あご、最後に舌を奥から手前へ軽くなでる順番で汚れをふき取ります2。
お口が乾いていると粘膜が傷つきやすいため、先に水や保湿ジェルで湿らせてから始めましょう2。乾燥が続くときは、飲んでいるお薬の影響も考えられるため、歯科医院で相談してみてください。
部分入れ歯の外し方・洗い方と夜の保管
部分入れ歯は、歯にかかっている金具(バネ)に爪をかけてゆっくり外します。外した入れ歯は、水を流しながら入れ歯用ブラシで洗いましょう。普通の歯磨き粉には研磨剤が入っていることが多く、入れ歯の表面に細かい傷がついて細菌がたまりやすくなるため使わないでください3。
部分入れ歯は、寝る前に外してしまっておくのが基本です4。入れ歯を外したタイミングで、金具がかかっていた歯の根元や歯ぐきに赤みがないかを見ておくと、小さな変化に気づきやすくなります。
むせやすい方の姿勢とうがい水の扱い方
むせを防ぐには、上半身をしっかり起こし、あごを軽く引いた姿勢に整えます。ベッドの上で行う場合も、できるだけ体を起こして、水がのどの奥へ流れ込まないように気をつけます。
うがいは少量の水を口に含み、下を向いて吐き出してもらいます。飲み込む力が弱っている日やむせやすい日は、無理にうがいをせず、湿らせたガーゼやスポンジブラシで汚れをふき取る方法に切り替えましょう2。
ポイント
ご本人が磨ける前歯は任せて奥歯や歯ぐきの境目だけを仕上げ、あごを引いた姿勢で水分を少なめに扱うと、むせや負担を抑えやすくなります。
介助を嫌がる家族への声かけと、ケアを中断・再開する目安
これまで身の回りのことを自分でしてきた方ほど、口元に触れられることに抵抗を感じやすくなります。毎回すべてをきっちり仕上げようとせず、ご本人の気持ちや体調に合わせて力を抜く日をつくることが長続きの秘訣です。
自尊心を傷つけにくい声かけと頼み方
介助を始める前には必ず声をかけ、ご本人の同意を得てから口元に触れます2。「磨いてあげる」という言葉は子ども扱いされたと感じやすいため、「奥歯だけ少し見せてね」「入れ歯を洗っておくよ」といった、ご本人が主役になれる言い方に変えてみてください。
手鏡を持ってもらい、「ここだけ一緒にお掃除しようか」と確かめながら進めると、何をされているかがわかり、ご本人も受け入れやすくなります。
嫌がる・口を開けないときに中断してよい場面
顔をそむける、口を固く閉じる、むせが続く、疲れた様子が見えるときは、無理に続けずいったん手を止めましょう。押さえつけるような介助は、お口の粘膜を傷つけるだけでなく、次からの拒否を強める原因になります。
中断した日は、少し時間を置いてから声をかけ直すか、「今日は入れ歯を洗ってブクブクうがいだけにする日」と割り切って構いません。今まで嫌がらなかった方が急に口を開けなくなった場合は、歯の痛みや入れ歯が当たって痛いなどの理由が隠れていることもあるため、歯科で確認してもらいましょう。
朝は短く、夜はていねいに。忙しい家族の手入れの配分
お口の手入れは食事のたびに行うのが目安ですが、ご家族が仕事に出る前や家事が重なる時間にすべてを行うのは大変です。朝はご本人の歯みがきと、入れ歯がきちんと入っているかの確認だけにして、夕ごはんのあとや寝る前にご家族の仕上げみがきと入れ歯洗いをまとめて行うなど、一日のなかでメリハリをつけましょう。
体調がすぐれず食事をあまり取らない日でも、唾液が減ると口の中で細菌が増えるため、湿らせたガーゼでふき取る程度の手入れは続けてください。ご家族だけで抱え込まず、歯科医師や歯科衛生士からご本人に合った手入れのアドバイスを受けることも、負担を減らす助けになります。
家庭で様子を見ずに歯科へ相談したいお口のサインと伝え方
お口の変化を「年齢のせい」とそのままにしていると、食事がとりにくくなり、体全体の元気にも関わってきます。ご家庭での手入れと歯科での確認を上手に分けることが、今ある歯を守ることにつながります。
出血・痛み・腫れ・口臭など、歯科へ相談したい変化の目安
次のような様子が見られるときは、ご家庭のケアだけで様子を見ず、歯科医院へ相談する目安になります。
- やわらかいブラシで優しく磨いても出血が数日続く
- 歯ぐきが赤く腫れている、うみのようなものが見える
- 歯がぐらつく、入れ歯を外すと特定の場所を痛がる
- 強い口臭が続く、白い口内炎が2週間以上引かない
なお、歯ぐきから少し血が出ると「磨かない方がいいのでは」と心配になりますが、汚れが残るとかえって炎症が続く原因になります。強い痛みや腫れがなければ、やわらかいブラシで力を抜いて汚れを落とす手入れは続けながら、早めに診てもらいましょう。
むせや食べにくさ、入れ歯の不具合は口の働きの変化のサイン
夕食中にむせることが増えた、食べこぼしが目立つ、硬いおかずを残すようになったといった様子は、噛む力や飲み込む働きが変化しているサインかもしれません。また、「入れ歯はぴったり合わないもの」と我慢して使い続けていると、歯ぐきを傷めたり、噛み合わせのズレから食事がしづらくなったりします。
食事の前に耳の下やあごの下を優しくさする唾液腺(だえきせん)マッサージや、「パ・タ・カ・ラ」と声を出す体操、舌を動かす体操を取り入れると、お口の動きを保ちやすくなります。ただし、入れ歯が浮く、噛むと痛いといった不具合がある場合は、歯科での調整が必要です。
受診時に伝えたいことと、付き添いで事前に確認すること
加古川市周辺でご家族に付き添って受診される際は、「いつから・どこが・どんな場面で気になるか(例:夕食時のむせ、入れ歯を外したときの出血)」を短いメモにして持参すると、診察の場で落ち着いて伝えられます。お薬手帳と、普段使っている入れ歯も忘れずにお持ちください。ご家庭でどこまでご本人が磨き、どの場面で嫌がるかも伝えておくと、生活に合った手入れの方法を相談しやすくなります。
付き添いの負担を減らすため、予約の段階で「歩行に介助が必要」「待ち時間が長いと疲れやすい」といったご本人の状態を伝えておくのがおすすめです。車椅子のまま入れるか、駐車場から入り口までの動線なども事前に確認しておくと、当日の移動がスムーズになります。
通院が負担になるときは訪問歯科も含めて河合歯科医院へご相談を
お体のぐあいによって歯医者さんへ通うことがむずかしくなったときは、歯科医師やスタッフがご自宅や施設へうかがう訪問歯科診療という方法があります。むし歯や歯周病の治療、合わない入れ歯の調整だけでなく、お口のケアを通じて、誤嚥性肺炎をふせぐことにも取り組みます。
長く通ってくださった患者さまとご家族を、通うのが難しくなったあとも支えたいという思いから、この取り組みを続けています。なお、一部の特別な処置や素材を選ぶときなど、内容によっては公的な医療保険や介護保険が使えない自由診療(自費)になることがあります。
たとえば自由診療の入れ歯は、金属床(きんぞくしょう)や特殊な樹脂などの素材を使い、お口全体の型取り、かみ合わせの記録、試しにはめての確認、できあがったあとの調整と、何度か通って仕上げていきます。費用や期間、通う回数、保険が使える範囲は、医療機関やお口の状態によって異なります。当院の費用は診察のうえでご案内します。
また、入れ歯をつくるときや調整するとき、歯ぐきの処置のときには、一時的な痛みや違和感、粘膜の傷や出血が起こることもあります。対象となる条件とあわせて、事前に医院へおたずねください。
ポイント
数日続く出血や食事中のむせ、入れ歯の違和感は歯科へ相談するサインです。気になる場面のメモとお薬手帳を用意し、通院が大変なときは訪問での相談もご検討ください。
よくある質問
Q. 高齢者が口腔ケアをしないとどうなりますか?
A. お口の中に食べかすや細菌が残ると、むし歯や歯周病が進みやすくなるだけでなく、強い口臭や入れ歯の不具合につながります。さらに、お口を清潔にしておくことは誤嚥性肺炎を防ぐためにも大切とされていて、手入れが途切れるとその備えが弱くなります。噛みにくさから食事の量が減り、体全体の元気が落ちるきっかけにもなるため、無理のない範囲で毎日のケアを続けることが大切です。
Q. メラミンスポンジで歯や入れ歯の汚れを落としてもよいですか?
A. 清掃用のメラミンスポンジを歯や入れ歯に使わないでください。メラミンスポンジは細かいでこぼこで表面をこすって汚れを落とすしくみのため、歯に使うと表面のエナメル質まで削ってしまうおそれがあります5。入れ歯の表面にも細かい傷がつき、汚れがつきやすくなるおそれがあるため、手入れには歯科用のやわらかい歯ブラシやスポンジブラシ、入れ歯専用ブラシをお使いください。
Q. 意識がない方やうがいができない方の口腔ケアはどうすればいいですか?
A. うがいができない方や意識がはっきりしない方に水を使うと、気管に流れ込んでむせるおそれがあるため、水を使わない方法で手入れを行います2。上体を少し起こして顔を横に向け、水に浸してから固く絞ったスポンジブラシや湿らせたガーゼで、歯や粘膜の汚れを奥から手前へふき取ります2。ご家庭での対応に不安がある場合は、無理をせず歯科医師や看護師などの専門職へご相談ください。
Q. 家族向けの口腔ケア指導やパンフレットは歯科医院でもらえますか?
A. 多くの歯科医院では、残っている歯や入れ歯の形に合わせたみがき方を説明しており、手順をまとめた紙をもらえることもあります。ご本人に合わせた手順書を使うと、お口の清潔を保ちやすくなります。付き添いで受診するときや訪問診療のときに、「家で手伝える部分を知りたい」とお伝えください。
参考文献
1. Chebib N, Rotzinger S, Maccarone-Ruetsche N et al. The impact of a personalized oral health instruction form on oral health indices in institutionalized older adults: a randomized, controlled, single-blinded clinical trial. BMC oral health. 2025. PMID: 41214684 / DOI: 10.1186/s12903-025-07102-y
2. Zulkifly NA, Omar AF, Sabri BAM et al. Oral Health Care Protocol for Caregivers of Elderly in Nursing Homes: A Systematic Review. Special care in dentistry : official publication of the American Association of Hospital Dentists, the Academy of Dentistry for the Handicapped, and the American Society for Geriatric Dentistry. 2025. PMID: 40215102 / DOI: 10.1111/scd.70030
3. 清潔な入れ歯でなんでもおいしく食べよう! | 大垣市公式ホームページ/水の都おおがき. https://www.city.ogaki.lg.jp/0000020630.html
4. 部分入れ歯の上手な付き合いかた | Science Tokyo 旧・東京医科歯科大学. https://www.tmd.ac.jp/pro/70_5583884f465ef/
5. 黄色い歯を白くする方法6選!歯の美白ケアをする歯科衛生士についても紹介 |. https://www.tcm.ac.jp/contents/column/teeth_whitening/
6. Razzaq S, Nykänen I, Välimäki T et al. Use of oral health care services by family caregivers and care recipients: the LENTO intervention. Acta odontologica Scandinavica. 2024. PMID: 38775632 / DOI: 10.2340/aos.v83.40687
1999年 大垣市民病院 研修医
2001年 県立多治見病院口腔外科 勤務
2002年 河合歯科医院 勤務医
2007年 河合歯科医院 副院長 就任
2015年 河合歯科医院 院長 就任
2019年 医療法人社団河合歯科医院 理事長 就任
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